2018年11月24日(土) 石川充先生 保護者対応記録

家庭で幼稚園(学校)での出来事を話してほしいのですが、全く話してくれないか そっけない返事ばかりです。子どもの会話を上手く引き出すコツはありますか?

子ども、特に神経発達症のお子さまは写真や録画した映像を見ながらだと、会話を引き出しやすくなります。デジカメで撮った画像をパソコンで見せながら「このときどうだった?」「これ美味しそうだねー!」「これとっても冷たそう!」など、親が話を振ってあげると会話のきっかけを作りやすくなります。また、映像や写真の何気ない仕草や表情から兄弟間のトラブルやお子さま自身の秘めた想いを引き出せる場合もあります。

親も読めないくらい字が汚く、ノートのマスの中にきちんと書くことができません。あらゆる方法を試しましたが、成果が出ず悩んでいます。書字についてこの先、どう教えていけば良いでしょうか?

文字、特に漢字は色んなパーツが組み合わさってできています。アルファベットと異なり厄介なのは、形が複雑で、書き順があって、細かいトメ・ハネまであること。まずはこの際、そんなことは気にしなくていいんです。例えば、野原の「野」の文字。子どもたちは、目で見たイメージで入ってくるので「田んぼの『田』の下に『土』、カタカナの『マ』を書いて、その下にカタカナの『ア』」と覚える子も多いでしょう。パーツで覚えるのは悪いことではありません。書き順、トメ・ハネは二の次でいいので、まずは子どものイメージを否定しないであげてください。「絶対にこうでなければ」「漢字はこう覚えるべき」という先入観を捨て、覚えやすい工夫を提供してあげてください。理想は「遊びとして学びを提供すること」です。私の病院では、指で画面の文字をなぞりながら筆圧や書き順、トメ・ハネをゲーム感覚で学べるiPadのアプリを活用しています。こうしたものもぜひ試してみてはいかがでしょうか。

物でも人でも学習でも、一度嫌だと感じるとずっと嫌だと思い込む傾向があって困っています。

先に結論を教えてあげて、苦手だと思わせない工夫が必要でしょうね。子どもたちは目で見たままのイメージで判断してしまいがちですが、例えば「あの人は怖そうな人だけど、本当はとっても面白い人なんだよ」といったふうに「本当は〇〇」「実は〇〇」と情報を入れてあげると、固定観念を変えられるかもしれません。

特別支援学級の子が、通常学級と交流する授業・行事で気を配るべき点があれば教えてください。出来ないことで、かえって自信を無くしてしまうのではないかと心配です。

通常学級との交流は、精神鍛練のための武者修行ではありません。なるべく過ごしやすいように、自信をもてるように配慮してあげることが必要です。具体的には、事前に情報を入れてあげることです。交流する授業・行事の際には、どこで誰と何をするのか、その子はそこでどう過ごしたらいいのか、困ったときはどうすればいいのかなど、予習してから参加させると良いでしょう。交流行事は、特別支援学級の子にとって自信をつけさせることが目的なんですから。通常学級の子と比べて出来ないことに目を向けさせるのでは本末転倒です。凸凹のある子は特に、得意な点、一生懸命やって出来たことをまずはどんどん褒めて、自信を持たせてあげてください。

体育が苦手で、特にボールを使った運動が不得意です。何とか自信を付けさせてあげたいのですが。

ボール運動が苦手なのは、ボールが怖いから。恐れを抱いたり、自信がなくなると、大人だって次やりたくなくなりますよね。当たっても全く痛くない軟らかいボールを使った遊びから始めてみてください。そして大事なのは「大丈夫だよ」と不安を消してあげる声掛けをすることです。不安を消して、出来たら褒めるを繰り返しながらステップアップを図ってみてください。

宿題の取り組ませ方で悩んでいます。「〇時からやろうね」と親が言っても、かんしゃくを起こすばかりで逆効果です。

開始時間など、自分で決めさせることが大事です。なぜなら、人から決められると気持ちが逃げてしまうからです。そして、きちんと時間通りに始めたら、その点をまずは褒めてあげること。学習中に褒めるべき点をたくさん探して、それを口にして子どもに伝えてみてください。「ああしろ」「こうしろ」「これじゃダメ」の学習では、嫌いになる一方です。最初は褒めるべき点がなくても、無理やりでもいいから褒めて褒めて褒めまくって、いい意味で“調子にのせて”あげてください。褒められた成功体験は、必ず次につながります。あとは、算数が嫌いになる第一歩目として九九がありますが、数字や物を並べて理論的な意味づけはあまりせず、音やリズムで頭でスッと出てくるような覚え方のほうが、子どもは取り組みやすいと思います。

普段の生活中、やってほしいこと、やらなければいけないことを紙に絵を描いて貼り出しているですがうまく伝わりません。どうしたら良いでしょうか?

絵で伝わらないときは、写真が効果的です。絵の人物を自分自身と認識できていないから伝わらないのかもしれません。ポイントは「子どもの視点で、自分だと分かるように」することです。例えば食事しているお子さんの表情を写すのではなく、子どもの目線から本人の後ろ姿を入れつつ食べている姿を写した写真の方が認識しやすいでしょう。靴を履くことを教える場合は、玄関の外側からではなく、履くときの目線で内側から靴を写してください。継次処理が苦手で、順序立った理解が難しい子の場合「〇時に出掛けるから、何時までに何をする」という時間を逆算した具体性のある示し方が適切です。「出来ないんじゃなくてやり方が分からないだけ」という子は大勢いますから、ちょっとした工夫であっという間に出来るようになることは多々あります。

運動会のピストルなど、大きい音をとても嫌がります。ほかにも学校や社会の中には色んな嫌な音があるようで困惑しています。

過敏なところはトレーニングである程度コントロールできるようになりますが環境からくる障がい、つまり本人の努力とは違うところで起きる障がいについては、周囲に配慮をお願いする必要もあると思います。「運動会のピストルの音に慣れなければ社会で生きていけない」というわけではありませんよね。音がダメな子には、ピストルは使わずに手で合図して一番最初のグループで走らせるとか、優しい音のホイッスルに代えるとか、学校側がするべき配慮の仕方はたくさんあるはずです。無理やり頑張らせて、その子の気持ちを逆撫でするというのが一番やってはいけないことです。昨今話題になっている「合理的配慮(※1)」を学校・行政・民間全てが実践できるよう取り組んでいかなければいけませんね。 ※1【合理的配慮とは…】 障がいのある人たちの人権が障がいのない人たちと同じように保障されるとともに、教育や就 労、その他社会生活において平等に参加できるよう、それぞれの障がい特性や困りごとに合わ せて行われる配慮のこと。2016年4月に施行された「障害者差別解消法」により、この合理的 配慮を可能な限り提供することが求められるようになった。

集団の中だと、他の子にちょっかいを出してしまって困っています。

どうしても自閉の子は興味の幅が狭いので、集中し切れないところが出てしまします。相手をどうにかしようと思って手を出しているわけではなく、集団の中で不安な気持ちを持っているから手が出てしまうのです。そういった子たちは「もうちょっと静かに」「もうちょっと落ち着いて」「もうちょっと我慢して」の「もうちょっと」が分からないんです。その後、何が起こるか分からないまま集団の中に放り込まれるから不安になる。何が起こるか教えてあげれば不安な気持ちは和らぎます。まずは不安を取り除いてあげてください。

叱られたときや退屈なときなど、物を噛むクセが直りません。

行動には必ず理由があります。これは不安な気持ちを落ち着かせるための行為ですので、小さいうちは無理に止めなくていいと思います。「ダメ!」と叱られたことに対して、気持ちを落ち着かせるための噛む行為にさらにダメ出ししたら、子どもはますますパニックを起こしてしまいます。噛んではいけないものを噛んでいたら、それは注意が必要です。しかし「やめなさい」「ダメ」と頭ごなしに注意するのではなく、そのときは噛んでもいいものを代わりに出してあげてください。また、噛む行為の代償として、ハグをしてあげるなどその子が落ち着く代わりの何かを探してあげるのもいいかもしれません。

毎晩、読み聞かせをしているのですが全く興味を持ってくれません。本を好きになるための良い方法はありますか?

読み聞かせは、前頭前野を刺激するとってもいい手段です。でも、毎晩の読み聞かせって本当に大変ですよね。私はね、読んでいるうちに子どもより先に寝ちゃったり、「あっ、聞いてないな」って思って飛ばして読んだりするとすぐに子どもに注意されちゃうんですよ(笑)。毎晩大変だと思いますけど、コツは淡々と読まないこと。抑揚を付けて感情豊かに読んであげることが大切です。「きれい」「すごい」「大きい」などの形容詞は、特に感情込めてみてください。あとは、なるべく短めの絵本から始めるといいかもしれませんね。5分から長くて10分くらいがちょうどいい長さだと思います。

コミュニケーションを取るのが苦手で、人が大勢いるところで居場所を作れないでいます。

まず大事なのは「全ての人と仲良くする必要はないんだよ」と教えてあげることです。居場所を作れないなら、逃げ場を作ってあげればいいんです。出口に近い場所に置いてもらって、いつでも脱出できるという心の余裕を与えて「今はここでいいんだよ」と最初から全力で頑張る必要はないことを保証してあげてください。相手の目を見てあいさつしたり、話したりするのはとっても大変ですが、まずはその人の方へ体を向けて話すというところから始めてみてください。最初から求めすぎなければ、段々とコミュニケーションを取れるようになってきます。徐々に学年が上がると、学校のことを親に話さなくなってきますが「大変なときは、大変」と言うことだけでも約束事として決めておくと良いでしょう。

普段の生活だけでなく、メグシィでの療育中でもひとつのことになかなか集中できないのが気になります。

なぜ、ひとつのことに集中できないのか。答えは簡単です。やりたいことがたくさんあって忙しいから。そういった子をひとつのことに向かわせたいなら、余計な情報を遮断して整備する必要があります。いま使わないものはしまっておくか隠してください。何もなくてそれしかなければ、その子はそれに向かいます。あとは「あれこれやりたい」とせがんでくる子どものペースに惑わされないことも大切です。次から次と移り替わる興味の対象に、大人が振り回されてはいけません。

療育に参加しながらの声掛けで特に印象的だった言葉

     
  • 何度言っても分からないのではない。何度も言うから分からなくなる。
  • 多動の子のキラキラした目の輝きに注目して。やりたいことがたくさんあって楽しんでいる証拠。
  • 頑張ったがダメだったときは、出来なかったことに目を向けるのではなく、ダメになる直前まで頑張ったことを褒めてあげよう。
  • どんな行動にも必ず理由がある
  • 学びは「遊びの要素」を盛り込んで提供する
  • 凸凹のある子は、苦手な凹ではなく得意な凸を徹底的に褒める
  • 宿題を意欲的に取り組ませたいなら、注意・命令はNG。褒めて褒めて、いい意味で調子にのせよう。
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  • 不安感を取り除くために、先に結論を言う
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  • 出来ないんじゃなくて、やり方が分からないだけ